南ドイツ新聞と「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ)が入手したタックスヘイブン租税回避地)の秘密ファイルには、日本国内を住所とする約400の人や企業の情報が含まれている。
ICIJと提携する朝日新聞が分析・取材したところ、政治家ら公職者は見当たらなかったものの、医者や実業家らが資産や利益を租税回避地に移そうと試みていたことがわかった。
 兵庫県内の医師(60)によると、東南アジアで病院を開業しようとした際、香港のコンサルタント会社から勧められ、2011年に英領バージン諸島にある会社の株主になった。「病院で利益が出たらこの法人にまわす考えだが、今のところ余裕はなく、メリットは享受していない」という。さらに別の病院も開きたいと考えており、「海外からの投資を集める窓口としても使いたい」と語った。
 ログイン前の続き12年8月には同諸島の別の会社で、日本の私立医科大学の現役教授が筆頭株主になった。この教授によると、抗がん剤の開発に資金を出してくれる人を探していたところ、中国人投資家が応じてくれた。バージン諸島に会社が作られ、そこに特許の権利を移した。将来、開発が実現し、製薬会社に権利を売却できた際に、売却益の1~2割を受け取るつもりだった。
 ところが、設立直後、中国人投資家に連絡がつかなくなった。尖閣諸島問題日中関係が悪化した時期と重なり、この教授は「政治的な事情が背景にあるのでは」と推測する。
 知的財産タックスヘイブンなどに移してその利益への課税額を抑える手法はその年の秋、コーヒーチェーン大手のスターバックスなどで発覚し、社会問題になった。経済協力開発機構(OECD)の主導で規制強化が進められている。
 大分県内の実業家(41)は香港のコンサル会社から「前の日本人株主が手放したがっていて、手続きが早く済む」と勧められ、13年6月にバージン諸島の会社を譲り受けた。「中国企業との間で環境関連商品の取引話があり、海外に口座を作る必要があった」という。その後、取引話はなくなり、この会社を利用することはなかったという。(五十嵐聖士郎、編集委員・奥山俊宏