2016年2月22日月曜日

日本経団連の規制改革要望

2015年度経団連規制改革要望

2016年2月16日
一般社団法人 日本経済団体連合会

経団連では、昨年6月12日から7月31日にかけて、全会員企業・団体を対象に「2015年度経団連規制改革要望」のアンケート調査を実施し、98社・団体より508件の回答が寄せられた。
本年度は各政策委員会の活動との一体性を高めるため、関係の深い委員会毎に精査・とりまとめを行い、昨年10月から本年1月にかけて12分野・149項目にわたる要望を政府に提出した。個別要望は以下の通り。

1.土地・住宅・都市再生・観光分野(34項目)

  1. (1)工事中の計画変更時における避難安全検証大臣認定再取得手続きの短縮もしくは免除
  2. (2)テナントオフィスビルにおけるテナント入居部分のスケルトン竣工の許可
  3. (3)建築基準法 旧38条大臣認定建築物の活用
  4. (4)建築基準法における既存エスカレーターの脱落防止措置の緩和
  5. (5)外壁の開口部で延焼のおそれのある部分の防火設備
  6. (6)住居系用途の自動車車庫の面積規制の見直し
  7. (7)建築物の構造方法の認定等の変更対応の見直し
  8. (8)既存不適格ビルの建替えの円滑化に向けた特例制度の創設(緊急輸送道路沿にある容積オーバー建物建替時の現状容積確保の方策)
  9. (9)都市再生特別地区内の建築物の日影規制適用除外
  10. (10)容積制限の特例の対象となる施設の拡大
  11. (11)共同住宅の共用部の容積緩和
  12. (12)バルコニーの延べ面積非算入の条件
  13. (13)バルコニーの外気に有効に開放されている部分の取り扱い
  14. (14)第一種低層住居地域における既存病院の建替えの促進
  15. (15)工業専用地域における物品販売業・小売業の出店規制の緩和
  16. (16)経営業務管理責任者に関する規制の見直し
  17. (17)電気通信工事・機械器具設置工事業における監理技術者資格者の要件緩和
  18. (18)親会社及び連結子会社から成る企業集団内の会社間における建設技術者の有効活用
  19. (19)同一業種について許可営業店ごとの特定・一般建設業の選択の容認
  20. (20)開発行為を伴う場合の、建築工事の建築確認下付までの期間の短縮
  21. (21)大街区化における廃道許可手続きの簡素化(議会承認の不要化)
  22. (22)周辺が単一の用途地域に囲まれている場合の用途地域変更の手続き簡素化(工業専用地域から、住宅・商業用地域への変更)
  23. (23)借地借家法における正当事由制度の見直し
  24. (24)建築士事務所登録手続き等の統一
  25. (25)第一種市街地再開発事業の施行区域要件の見直し
  26. (26)住宅瑕疵担保履行法の供託に関する販売戸数の合算
  27. (27)公共建築物における構造種別制限の見直し
  28. (28)建物区分所有法における決議要件の変更
  29. (29)建築物に設置するクレーン等設置規則内のエレベーターの設置届提出期限の見直し
  30. (30)「一団の土地」取引における国土利用計画法第23条第1項に基づく届出基準の明確化及び当該基準の全国的な統一
  31. (31)登記完了後に交付される書類の記載内容改善
  32. (32)一般住宅・住居を利用した民泊の旅館業法の適用除外
  33. (33)免税手続きカウンター設置可能範囲の拡大(1棟の建物内、大規模小売店舗内、商店街振興組合もしくは事業協同組合の地区内という限定の解除)
  34. (34)自動化ゲート利用者への免税販売制度の周知強化

2.運輸・流通(14項目)

  1. (1)繁忙期におけるレンタカー使用の容認
  2. (2)自家用マイクロバス貸渡しの届出に係る申請書類の削減
  3. (3)物流総合効率化法における特定流通業務施設の開発許可基準の見直し
  4. (4)高さが31メートルを超える物流施設における非常用エレベーターの設置要件の見直し(設置台数の削減)
  5. (5)物流施設における駐車場・車路等の容積不算入面積の上限の引き上げ
  6. (6)石油コンビナート地帯における航空障害灯及び昼間障害標識の設置免除の事務処理基準の緩和
  7. (7)航空機の装備品の整備委託管理における承認規程の見直し(受託者に関する記載の不要化)
  8. (8)航空機の予備品証明書交付に係る手続きの簡素化
  9. (9)装備品等が正常でない場合における航空機の運用許容基準の改訂に係る届出要件の緩和
  10. (10)双発機による長距離進出運航実施基準の見直し
  11. (11)回転翼航空機への連続式耐空証明の交付
  12. (12)航空機の発動機等の限界使用時間及び整備方式に係る指定内容の見直し
  13. (13)航空機装備品の予備品証明の申請手続きの迅速化
  14. (14)酒類小売業免許における酒類販売業の承継手続きの簡素化

3.農業・食品(4項目)

  1. (1)農業生産法人(農地所有適格法人)の構成員要件の緩和等、農地規制の更なる見直し
  2. (2)砂糖・でん粉の価格調整制度の廃止
  3. (3)揚げ処理中の油脂劣化に関する規制の見直し
  4. (4)畜肉加工品(輸入品)の動物検疫に関するルール変更

4.廃棄物・リサイクル、環境保全分野(7項目)

  1. (1)県外産業廃棄物流入規制の見直し
  2. (2)産業廃棄物管理票(マニフェスト)に関する報告書の報告事項の統一
  3. (3)産業廃棄物処理業許可における役員変更届出の期限延長
  4. (4)産業廃棄物収集運搬業許可取得手続きの合理化・短縮化
  5. (5)泥土圧式シールド工事掘削土の取扱の見直し
  6. (6)食品リサイクル法の定期報告書の業種区分の見直し
  7. (7)土壌汚染対策法の見直しの着実な実施

5.危険物・防災・保安分野(16項目)

  1. (1)容器再検査の方法に係る容器保安規則の見直し
  2. (2)移動式設備により製造した硝安油剤爆薬の火薬庫への貯蔵
  3. (3)移動式製造設備におけるディーゼル車の基準緩和
  4. (4)屋外タンク貯蔵所における指定数量の計測方法
  5. (5)化審法の少量新規化学物質確認制度、低生産量新規化学物質に関する審査の特例制度における総量規制等の見直し
  6. (6)化審法新規化学物質届出の際の分解生成物の取扱い
  7. (7)化審法新規化学物質届出の際の高分子化合物の取扱い
  8. (8)防火管理者等の定期義務講習の実施方法の緩和
  9. (9)消防計画と防災規程の一体化
  10. (10)複数の保安法令の申請書・窓口の統一
  11. (11)防火・防災管理者の届出基準の明確化
  12. (12)災害時等における緊急通行車両等の申請基準緩和要望
  13. (13)ターミナル駅における消防法上の設備設置単位分割方法
  14. (14)線路上空建築物の線路階における耐火性能
  15. (15)定期検査報告における排煙機の風量測定による是正判定の取りやめ
  16. (16)非常用発電機用オイルタンクの燃料の貯蔵量上限、離隔距離の緩和・撤廃

6.エネルギー(14項目)

  1. (1)省エネ法、温暖化防止条例に基づく届出の一元化の推進
  2. (2)第三種電気主任技術者の取扱電圧上限の引上げ
  3. (3)電気事業法における「ダム」の定義の見直し
  4. (4)第三種電気主任技術者試験を再受験する際の合格科目の取扱い変更
  5. (5)第一種電気工事士免状交付にかかる必要実務経験期間の短縮
  6. (6)簡易受電設備の保守条件(点検頻度・受託件数上限)の緩和
  7. (7)保安管理業務受託者が有するべき機械器具の要件緩和
  8. (8)小規模高圧需要設備の保安管理業務受託条件の公平化
  9. (9)省エネ優良事業者の届出負担軽減
  10. (10)グループ会社単位での省エネ法定期報告の実現
  11. (11)火力発電所をリプレースする場合の環境影響評価手続の合理化
  12. (12)災害時の燃料供給に用いる非常用内燃式発電設備を対象とした電気事業法上の小出力発電設備の要件緩和
  13. (13)ガスタービンの定期安全管理検査頻度の緩和
  14. (14)電気設備の低電圧区分の見直し

7.情報通信(12項目)

  1. (1)民間事業者による行政情報の有効な利活用を推進するなど官民が保有する情報を連携するための基盤の構築
  2. (2)民間企業におけるマイナンバーの利用拡大
  3. (3)個人事業主への法人番号の付番
  4. (4)個人番号カードのICチップ空き領域の技術情報の開示
  5. (5)スマートフォンの個人番号カードのサブカードとしての利用
  6. (6)電子帳簿保存の承認要件の緩和
  7. (7)タイムスタンプの法的根拠
  8. (8)給与明細の電子化実施時の本人同意取付
  9. (9)時分割多元接続方式広帯域デジタルコードレス電話が利用可能な周波数の技術的条件の見直し
  10. (10)IoT応用WiFi(IEEE802.11ah)の国内導入を可能とする制度整備
  11. (11)無線方式を用いた自動火災報知設備の感知器、発信器、中継器及び受信機に関する技術上の基準の見直し
  12. (12)空家とその敷地の所有者情報の提供

8.電子行政分野(8項目)

  1. (1)医薬品・医療機器等法に基づく資料提出の更なる電子化の推進
  2. (2)各種申請書類における手数料の納付方法の拡充および電子申請の可能化
  3. (3)省エネ法に基づく省エネ措置の届出のオンライン申請・電子データ申請化
  4. (4)道路使用許可の電子申請手続きの推進
  5. (5)生命保険会社に対する行政機関等からの照会文書に係る様式の統一化・電子化
  6. (6)e-Taxソフト(WEB版)による法定調書の作成・提出対象およびデータ容量の上限の拡大
  7. (7)行政手続きにおける漢字コードの統一化
  8. (8)eLTAXを通じた税額通知の促進

9.雇用・労働分野(8項目)

  1. (1)日雇派遣の原則禁止の見直し
  2. (2)グループ企業内派遣規制の廃止
  3. (3)離職後1年以内の労働者派遣の禁止の撤廃
  4. (4)労働契約申込みみなし制度の撤廃
  5. (5)派遣労働者を特定することを目的とする行為の適切な運用
  6. (6)障害者雇用納付金制度の改定
  7. (7)過半数組合のない企業等の就業規則の作成・意見聴取・届出手続きの簡素化
  8. (8)就業規則による労働条件の変更ルールの見直し

10.通商・国際協力分野(1項目)

  1. (1)輸出管理の規制品目番号体系の国際化

11.外国人材分野(4項目)

  1. (1)外国人技能実習制度の実施期間延長に伴う「短期在留外国人の脱退一時金」の見直し
  2. (2)特定活動(アマチュアスポーツ選手)の在留資格の取得要件
  3. (3)経済連携協定に基づく外国人介護従事者の取得資格要件等緩和
  4. (4)外国人留学生の進学時の待機期間における資格外活動許可申請の見直し

12.その他分野(27項目)

【金融・証券・保険】

  1. (1)金融子会社が行うグループ会社の従業者向け貸付けの貸金業法適用除外
  2. (2)保険会社の常務に従事する取締役等の兼職(グループ間限定)の見直し
  3. (3)保険会社の外国の関連法人等に係る子会社等業務範囲規制の緩和
  4. (4)保険契約の移転にかかわる手続きの簡素化

【経済法制】

  1. (5)独占禁止法第9条(一般集中規制)の廃止
  2. (6)独占禁止法第9条4項及び独占禁止法第9条ガイドラインの見直し
  3. (7)独占禁止法第11条による信託勘定に対する議決権保有規制の見直し

【医療・社会保険等】

  1. (8)診療放射線技師の検査機器使用時における医師立会いの不要化
  2. (9)健康保険組合を「行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律施行令」における対象法人に追加
  3. (10)任意継続被保険者・特例退職被保険者の健康保険料について、厚生年金からの特別徴収を可能とする
  4. (11)低リスクの医療機器に関する臨床研究・臨床評価の迅速化
  5. (12)治験開始後の医療機器の仕様変更時における、変更前後のデータの有効活用に向けた規定の整備
  6. (13)キット医療機器に係る承認基準の拡大
  7. (14)医療用ソフトウェアに関する規制の運用の継続的な見直し
  8. (15)管理医療機器販売業の届出書における様式の統一化

【投資促進】

  1. (16)公有水面埋立てにおける免許付与の対象拡大
  2. (17)緑化面積の算出方法の見直し
  3. (18)建築基準法の既存遡及(エレベーター)の見直し
  4. (19)自動車修理工場の立地に関する規制緩和
  5. (20)工場立地法における緑地率の緩和推進
  6. (21)国有保安林解除手続きにおける審査の簡素化・迅速化

【民間開放等】

  1. (22)郵便・信書便制度の抜本的な見直し
  2. (23)古物営業法における「古物商」の許可規制の緩和
  3. (24)シェアードサービス企業における社会保険関連業務の可能化
  4. (25)固定資産評価業務の民間開放
  5. (26)公共サービスにおける在宅環境での業務委託の可能化
  6. (27)包括的業務委託に際する保安業務の外部委託時の警備業法上の再委託からの除外
以上

2016年2月14日日曜日

ジカ熱とは

ジカウイルス感染症について


厚生労働省より
 ジカ熱とは
 中南米を中心に、ジカウイルス感染症が多数報告されています。
ジカウイルス感染症はデング熱及びチクングニア熱と同様、蚊を介して感染します。また、ジカウイルス感染症は感染しても症状がないか、症状が軽いため気付きにくいこともあります。
 海外の流行地において、蚊に刺されてから数日後に、軽度の発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛等の症状が見られた場合は、医療機関を受診してください。
 海外の流行地へ出かける際は、できるだけ肌を露出せず、虫よけ剤を使用するなど、蚊に刺されないよう注意してください。
 厚生労働省では、引き続き、ジカウイルス感染症に関する注意喚起を行うとともに、情報収集や調査研究を実施し、適切な対応を行ってまいります。

2016年2月13日土曜日

やっぱり危ない! 狙われる日本の医療 その2 堤未果 

やっぱり危ない! 狙われる日本の医療  その2 堤未果 

「皆保険は薬価から切り崩される!」  

TPPの本丸ともいわれてきた医療。国民皆保険制度は守られるのだろうか。

・「国民皆保険制度はTPP後も堅持する」
という政府発表を鵜呑みにしてはいけません。
安倍首相が仰るように制度の形そのものは残りますが、
中身は形骸化してアメリカ型医療になっていくからです。
WHOや国境なき医師団などがTPPによる薬価高騰を批判していますが、
日本の皆保険が崩れていく入り口も恐らくここからでしょう。

1月7日にTPP協定条文の暫定仮訳が公開されました。
例えば「透明性及び腐敗行為の防止」の章を見てみます。
ここでいう「透明性」という言葉は、国際貿易条約では、
「利害関係がある人たち、つまり企業や投資家を意思決定プロセスに参加させる」
という、彼らにとっての透明性という意味。
例えば薬価決定プロセスへの製薬会社の介入が拡大されれば、
「この価格はおかしい、フェアな競争が阻まれる、非関税障壁だ」
と異議申立てをすることができるようになるのです。


・アメリカの医産複合体による日本への圧力は、1980年代の
中曽根政権時代(1985年の日米市場志向型分野別協議:MOSS協議)
からここ数十年続いています。
世界一の薬消費大国で、かつ新薬を税金で継続的に買ってくれる
国民皆保険制度がある日本は、医療市場としては大変儲かるので欲しくて仕方ない。
だから皆保険制度は残したままTPPで薬価を抑える規制を外し、
もっと高く、もっとたくさん買ってもらおうという寸法なのです。


・・・政府とマスコミは「医療費が増えた」「財政がもたない」
と騒ぎますが、その最大の原因が割高な海外からの新薬だという事実は
伏せています。

実はTPP問題では、並行して進んでいる国内法の改悪もセットで注目
しなければなりません。
TPPで儲かる外資と医療費を抑制したい財務省の利害が一致しているからです。
この4月から、混合診療の範囲を拡大する「患者申出療養」が導入されます。
国内での混合診療範囲の拡大は、
TPPと同じ方向を目指していることに注目してください。


・保険収載が前提という歯止めなしに混合診療を拡大すると、
経済的理由で病院に行けない人が増えるので、一時的には韓国のように
国の医療費は下がりますが、その後アメリカのようにER(救急救命室)
がパンクし、生活保護受給者が急増。
結局、企業は儲かりますが医療財政は悪化するでしょう。

実はこの状態を作る道はTPPだけではありません。
TPPによる外圧と同時並行で、選挙で選ばれてもいない民間議員が、
横から「国家戦略特区」で規制緩和を進め、
最後に政府が中から混合診療の拡大を押し込んでくる。
今、この3方向で進めてきているのです。

国家戦略特区では、今まで禁止となっていた病院の株式会社経営も
認められるようになる。
これも、今までずっと日本医師会などが反対してきたことですよね。


・戦略特区が怖いのは、特区から日本全国に広げる前提だということです。
TPPはアメリカが批准できないかもしれないけれど、喜ぶのはまだ早い。
医産複合体は保険をかけて、特区や内部からの規制緩和をセットで進めているのです。
これに多くの国民が気づいた時、チャンスが生まれます。

なぜか?
国家戦略特区は自治体単位なのでまだ止めることができるんです。
自治体には医師会もあるし、町の弁護士もいれば患者さんもいる。
この『TPP新聞』を読んだ方が、住んでいる地域の役所に行く、
県議会議員、市議会議員に問い合わせるという小さなアクションから、
変化を起こせます。


・皆保険や農協など、TPPで狙われているものが象徴するのは、
「株主至上主義」と対局にある価値観です。
その根幹には、日本人の持つ「お互いさまの精神」がある。
TPPの問題は、単なる貿易条約や経済利益ではありません。
これは私たちが人間としてどちらの価値観をベースに
未来を作るのかの選択です。
日本が守ってきた宝や世界に誇れるものを、
もう一度見直すチャンスでもある、非常に価値ある取り組みですね。


ジャーナリスト 堤未果(つつみ・みか)
東京生まれ。NY市立大学大学院修士号取得。
国連、証券会社などを経てジャーナリストとして独立。
著書に『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)、
『沈みゆく大国アメリカ2〈逃げ切れ!日本の医療〉』(集英社新書)
など多数。
『政府は必ず嘘をつく 増補版』を2016年4月に発刊予定。

TPP新聞 http://tpphantai.com/info/20160127-tpp-shimbun-vol04/

2016年2月12日金曜日

サウジアラビア王家の内紛


田中宇の国際ニュース解説からです
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★サウジアラビア王家の内紛
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 最近、サウジアラビア王家の内紛がひどくなっている。内紛の中心は、モハ
メド・ナイーフ皇太子と、モハメド・サルマン副皇太子という、王家の若手世
代の筆頭である2人の「モハメド」の権力闘争で、どちらが次の国王になるか
をめぐる戦いでもある。現在の継承権は、副皇太子の方が低位だが、副皇太子
はサルマン・アブドルアジズ現国王の息子だ。国王は、暗殺など何らかの方法
でナイーフ皇太子を外し、自分の息子を皇太子に格上げして、王位を継承させ
ようとしていると指摘されている。米当局筋によると、皇太子の交代は、今夏
に行われそうだという。

http://www.thesundaytimes.co.uk/sto/news/world_news/Asia/article1657098.ece
`Saudi king `plots to bypass nephew' in handover of crown

 ロシア発の情報によると、ナイーフ皇太子は、国防相でもあるサルマン副皇
太子が、軍を動かして自分を暗殺するのでないかと恐れている。諜報機関を握
るナイーフは、サルマンら王族たちの電話をさかんに盗聴しているという。内
務相でもあるナイーフは、国内の諸部族の族長と連絡をとり、部族を動かして
治安を悪化させ、それを副皇太子や国王のせいにすることで、自分が外される
ことを防ごうとしている。現国王が就任したとたんに起きたイエメンとの戦争
や、今年初めのシーア派のニムル師の処刑は、ナイーフの策に沿っている感じだ。

http://en.farsnews.com/newstext.aspx?nn=13941111001542
Russian Publication: Mohammed Bin Salman to Use Miltary Force to Topple Would-Be King Bin Nayef

【サウジの王族などの人名は「自分の名前・父親の名前・(祖父の名前・曽祖父の名前・・・)」という構造になっており、ナイーフやサルマンは父親の名前だが、彼ら自身の名前で呼ぶと2人とも「モハメド」になってしまうので、ここではナイーフ皇太子、サルマン副皇太子(もしくは父親のサルマン国王と区別する意味で「若いサルマン」)と呼ぶ。サウジなどでは、頭文字をとってナイーフをMbN、サルマンをMbSと書くが、日本ではアルファベットの羅列で識別するのが苦手な人が多いので使わない】

 この内紛は「親馬鹿な国王のわがまま」を超えた、サウジの国家戦略の行方
をめぐる政争である。米欧アラブのメディアには、プロパガンダを大量に含ん
でいそうな各種の見方が散乱しており、どれが事実か見極めにくいが、私が見
るところ、ナイーフ皇太子が対米従属派で、サルマン副皇太子(と父親のサル
マン国王)は対米自立派であり、米国の覇権が低下するなか、サウジがどこま
で米国の支配につき合い続けるかという国家戦略をめぐる戦いだ。

 これまで数代にわたり、サウジの国王は80歳前後の高齢の兄弟(スデイリ・
セブン)が順番に数年ずつ継承してきた。だが今、ナイーフ皇太子は56歳、
サルマン副皇太子は弱冠30歳だ。国王は死ぬまで王位を維持できる。次の
国王は20-50年、王位を保持しうる。ナイーフとサルマンのどちらかしか
国王になれないだろう。ナイーフが次期国王になると、日本と同様、衰退する
米国にどこまでも付き従っていく可能性が高い。対照的に、若いサルマンが王
位を継ぐ、サウジは対米自立していき、多極型の世界体制のもとで、中露やイ
ランと並ぶ地域大国として振る舞う傾向を強めるだろう。

 ナイーフ皇太子は、米国諜報界とのつながりが強く、サウジ政府の治安担当
の最高責任者でもあり、米国主導のテロ戦争をサウジ側で率いてきた「軍産複
合体」の一員だ。皇太子は若い時に米国に留学してCIAなどと親しくして以
来、サウジ王室屈指の親米派で、2012年に内相に就任した時は「最も親米
的な閣僚」と米マスコミから賞賛された。

http://en.wikipedia.org/wiki/Muhammad_bin_Nayef
Muhammad bin Nayef   From Wikipedia

 1月2日に行われたサウジのシーア派の宗教指導者ニムル師の処刑を決めた
のも、政府の治安担当者であるナイーフ皇太子だとされている。軍産複合体が
イランに対してかけてきた核兵器開発の濡れ衣をオバマ大統領が解いてしまい、
経済制裁を解除されたイランが台頭し始める中で、中東のスンニ対シーアの
対立を再扇動したい軍産複合体を意を受けた処刑だった。ニムルの支持者たち
は、反政府デモでナイーフ皇太子を非難するスローガンを叫んでいる。

http://tanakanews.com/160106saudi.php
◆イランとサウジの接近を妨害したシーア派処刑

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/0d299e2e-b533-11e5-8358-9a82b43f6b2f.html
Mohammed bin Nayef, Saudi strong man in a power struggle

 ナイーフ皇太子の父親であるナイーフ・アブドルアジズは、副皇太子の父で
ある現国王の兄で、現国王が副皇太子だった時に皇太子だったが、2012年
に死去したため、現国王が皇太子に昇格し、その後昨年1月に国王になった。
サルマン副皇太子は、父親の国王が副皇太子になった11年から父親の側近と
して頭角を現し、経済運営などを手掛けた。父親が国王に即位した後、息子は
副皇太子に取り立てられ、経済政策の決定権を握る「経済開発評議会」の議長
に就任した。副皇太子は、米国留学組の皇太子と対照的に、国内のリヤド大学
を卒業しており、留学していない。

http://en.wikipedia.org/wiki/Mohammad_bin_Salman_Al_Saud
Mohammad bin Salman Al Saud   From Wikipedia

 昨年5月には、それまで石油省の傘下にあった国王石油会社アラムコが、石
油省から分離されて政府直轄になり、副皇太子が議長をつとめる評議会がアラ
ムコの経営の最高決定権を握ることになった。アラムコは、サウジの国家収入
の9割を稼ぎ出している。アラムコを掌握したことで、副皇太子は、財政面か
らサウジを牛耳ることになった。

http://www.platts.com/latest-news/oil/dubai/analysis-king-salman-consolidates-family-grip-26082090
King Salman consolidates family grip on Saudi power and Aramco

 国王が、息子の副皇太子にアラムコを握らせたことは、対米関係上、大きな
意味がある。サウジは14年秋から、原油の国際相場を下落させる政策を続け
ている。これは、米国のシェール石油産業をつぶし、世界の石油業界でのサウ
ジの支配力を守るための策略だ。巨額の債券発行で自転車操業しているシェー
ル石油産業の崩壊は、米国のジャンク債市場と債券金融システムの崩壊につな
がる。

http://tanakanews.com/150519saudi.htm
米サウジ戦争としての原油安の長期化

http://tanakanews.com/141130oil.php
米シェール革命を潰すOPECサウジ

 そのため、米国の石油産業と金融界は、あらゆる政治力を使ってサウジ王室
に圧力をかけ、サウジに原油安攻勢をやめさせようとした。それに抵抗するた
めのサウジ国王の策が、息子の副皇太子に個人的にアラムコを握らせ、王室内
の他の勢力が米国の意を受けてアラムコに圧力をかけられないようにした。サ
ルマン親子(サルマン国王とサルマン副皇太子)は、米国の圧力に抵抗しつつ、
米国の覇権を倒そうとし続けている。

http://nationalinterest.org/feature/the-prince-politics-behind-saudi-aramco-ipo-14909
The Prince and Politics Behind a Saudi Aramco IPO

 サルマン副皇太子は今年に入り、アラムコの資本の5%程度を数か月内に株
式上場する構想を表明した。これは、長引く原油安でサウジ政府自身の収入が
減少し、財政赤字が増大しているのを穴埋めするのが目的だ。

http://tanakanews.com/160113bank.php
◆ドルの魔力が解けてきた

 サウジは王政だが独裁的でなく、総勢3万人といわれる王族たちが合従連衡
して構成する雑多な勢力が、国王や執政担当者(今は副皇太子と皇太子)に圧
力をかけて政治を動かす実質的な合議制が続いてきた。王室内の諸派の中には、
米国の軍産や石油業界、金融界とつながった勢力が多い。サルマン親子は「米
国に楯突いて原油安を続けるから財政難になる。対米従属に戻れ」と言ってく
る諸勢力の批判をかわすため、アラムコの株式上場を計画している。

http://www.economist.com/news/middle-east-and-africa/21685529-biggest-oil-all-saudi-arabia-considering-ipo-aramco-probably
Saudi Arabia is considering an IPO of Aramco, probably the world's most valuable company

 サルマン親子が権力を握り続ける限り、サウジは米国が金融崩壊を起こすま
で原油安を続ける。逆に、ナイーフが皇太子の座を守って国王になり、サルマ
ン親子から権力を奪取したら、サウジは減産して原油相場を再上昇させ、米国
のシェール産業と金融システムを救うだろう。

http://www.institutionalinvestor.com/article/3524042/banking-and-capital-markets-emerging-markets/saudi-prince-mohammed-bin-salman-aims-to-shake-up-the-kingdom.html
Saudi Prince Mohammed bin-Salman Aims to Shake Up the Kingdom

 サウジ王政の上層部に深刻な暗闘がありそうなことは、以前から感じられて
いた。近年のサウジは、対米従属と米国離れという、相反する2方向の戦略を
バラバラにやっている。兵器の多くを米国から買ったり、米国と一緒にシリア
のアサド政権を倒そうとする一方で、米国の金融崩壊につながるシェール石油
つぶしの原油相場の引き下ろし戦略を続けている。中国やロシアに接近する一
方で、中露と並ぶ多極化勢力であるイランとの敵対を扇動したり、イエメンの
シーア派勢力に戦争を仕掛けたりしている。

http://tanakanews.com/131024saudi.php
米国を見限ったサウジアラビア

http://tanakanews.com/140110mideast.php
米国依存脱却で揺れるサウジアラビア

 だが、サウジ上層部の暗闘が誰と誰の戦いなのか、以前は判然としなかった。
状況が変わったのは、今年に入ってからだ。米英やロシアのメディアが、諜報
機関などからの情報をもとに、ナイーフ皇太子とサルマン副皇太子が対立して
いることを報じるようになった。米NBCの記事は「ナイーフ皇太子は米国に
愛されているが、そのことが王室内の戦いで皇太子に有利になるとは限らない。
米国は皇太子を応援しすぎており、これは逆効果かもしれない。すでに皇太子
は、サルマン副皇太子の許可を得ないと国王に会えない態勢を敷かれている」
と書いている。英インデペンデント紙は、副皇太子を「親の七光りしかない無
能者」と酷評している。日本のマスコミが対米自立派の鳩山元首相を酷評して
いた時を思わせる、軍産系らしいプロパガンダだ。

http://www.nbcnews.com/news/world/royal-pains-two-princes-vie-power-saudi-arabia-make-mess-n502271
Royal Pains: Two Princes Vie for Power in Saudi Arabia, Make a Mess

http://www.independent.co.uk/voices/the-most-dangerous-man-in-the-world-a6803191.html
The most dangerous man in the world?

http://sputniknews.com/middleeast/20160202/1034088377/saudi-palace-coup-analysis.html
Battle Royal: The Prospects of a Palace Coup in Saudi Arabia

 イランがサウジのシーア派から得た情報によると、1月下旬、中国の習近平
主席がサウジを訪問した際、国王や副皇太子と会談したが、ナイーフ皇太子は
習近平と会うことを拒否した。これが事実とすると、ナイーフが対米従属派な
ので、米国が敵視する中国の首脳との会談を拒否したという解釈ができる。対
照的に、サルマン副皇太子は、中国と並んで多極化の雄であるロシアのプーチ
ン政権と親しく、昨年サンクトペテルブルグの経済サミットにサウジを代表し
て財界を率いて参加したのは若いサルマンだった。

http://en.farsnews.com/newstext.aspx?nn=13941103000199
Chinese Furious after Saudi Crown Prince Shuns Meeting with President Xi

 若いサルマンは、父親が国王に就任するとともに国防相に就任している。経
済の大黒柱であるアラムコを支配する経済開発評議会の議長もしている彼は、
サウジの安全保障と経済の両方を一手に握る独裁的な権力者になっている。も
し今後、彼がナイーフを押しのけて皇太子になり、父親の死とともに国王にな
ると、これまでの合議制のサウジ王政では考えられなかったような独裁的な国
王になり、サウジ王政の権力は分散型から集中型に転換する。サウジ王室上層
部で対米自立の国策を目指す勢力は、50年間やれる若いサルマンを独裁的な
国王にすることで、王室内の対米従属派をずっと排除し、サウジの国家戦略を
恒久的に対米自立、多極型対応にしたいのだと考えられる。

 サウジ王政は従来、権力構造が合議制なので、王室内部の騙し合いや目くら
まし戦略が優先され、国家的な意志を明確にできなかった。しかし今後、若い
サルマンが独裁的な国王になると、明確な国家戦略を世界に向かって打ち出す
傾向を強めそうだ。米国覇権下でプロパガンダを担う米欧マスコミや国際人権
団体は、サウジの独裁体制を批判し続けるだろう。しかし、彼らの真の狙いは
サウジの対米自立を妨害することであり、サウジの人々の権利を守ってやるこ
とは二の次だ。

 最近、サルマン親子がナイーフを追い落とそうとする政争が激しくなるとと
もに、米英などのマスコミが、この政争についてプロパガンダと思える歪曲さ
れた解説をさかんに流すようになった。その主なものは、サルマン副皇太子の
せいでサウジがひどいことになっているという見方だ。たとえば、イエメンと
の泥沼の戦争を起こしたのは、国防相になったばかりのサルマンだったという
見方がある。だが、若いサルマンがイエメンと戦争したいと考えたのなら、国
防相になったばかりの時でなく、国防相になった後、数か月かけて軍内をある
程度掌握してから開戦するはずだ。

 そもそもイエメン戦争は、米国が起こした戦争だ。以前の記事に書いたよう
に、米当局は昨年3月、イエメンでフーシ派が首都サナアを掌握し、それまで
のハディ大統領から権力を奪ったまさにその時に、ハディ政権に支援してあっ
た5億ドル分の兵器を放置したままイエメンから米外交団を総撤退させ、フー
シ派に兵器がわたるようにした。フーシ派が急に戦闘機やミサイルを手に入れ、
隣接するサウジを攻撃できる力を持ったため、サウジはフーシ派が態勢を整え
る前に、急いでイエメンを空爆し、米国が放置していった戦闘機やミサイルを
破壊しなければならなくなった。米国は、昨年1月にサルマン父が国王になり、
息子が国防相になって、サウジが非米的なサルマン親子の体制になった直後に、
この展開を引き起こしている。

http://tanakanews.com/150331yemen.php
◆米国に相談せずイエメンを空爆したサウジ

 イエメン戦争は、米国がサウジの対米自立を阻止するために起こした戦争だ。
サルマンが若気の至りでイエメンに戦争を仕掛けたという「解説」は、軍産傘
下のマスコミによる、善悪をねじ曲げたプロパガンダである。

http://www.ndtv.com/world-news/the-young-saudi-royal-at-the-heart-of-the-middle-easts-great-power-struggle-1265633
The Young Saudi Royal At The Heart Of The Middle East's Great Power Struggle

 昨年12月には、ドイツの諜報機関BNDが、サルマン親子を酷評する報告
書を作り、マスコミに流した。報告書は、イエメン戦争を起こしたのも、イラ
ンとの敵対を扇動して中東の混乱に拍車をかけているのもサルマン親子だと書
いている。私から見ると、イエメン戦争やイランとの敵対を起こしているサウ
ジ国内の勢力は、サルマン親子でなく、サルマンの対米自立戦略をつぶしたい
ナイーフ皇太子らの方だ。この報告書は、サルマン親子に濡れ衣をかけること
でドイツやEUとサウジの関係を悪化させたいと考えた米英の軍事諜報筋(国
防総省やCIA、MI6)が作ってBNDに出させた感じがする。

http://www.dw.com/en/german-spy-agency-warns-of-saudi-intervention-destabilizing-arab-world/a-18889664
German spy agency warns of Saudi intervention destabilizing Arab world

http://www.scoop.co.nz/stories/HL1602/S00003/saudi-arabia-stoking-sectarian-conflict.htm
Saudi Arabia Stoking Sectarian Conflict

 この報告書が報じられた後、ドイツ政府が自らの傘下であるBNDを叱責す
るという異例な展開になった。ドイツが率いるEUは、中東で対米自立的な外
交戦略を模索しており、それを挫折させたい米英に「はめられた」感じだ。歪
曲した報告書を、歪曲した出し方で発表する。これが諜報界(軍産、外交官)
やその傘下のマスコミの手法だ。

http://www.dw.com/en/berlin-rebukes-spy-agency-bnd-for-criticism-of-saudi-arabia/a-18895596
Berlin rebukes spy agency BND for criticism of Saudi Arabia

「サルマン国王は痴呆症だ。数か月以内に、ナイーフ皇太子に王位を譲るだろ
う」「原油安は、若く未経験なサルマンが産油政策をコンサルタントに頼り切
りにした結果の失策だ」「シーア派のニムル師の処刑を決めたのも若いサルマ
ンだ」「若いサルマンの自動車の隊列が通るために道路を封鎖したことが、昨
年9月にメッカで2千人の巡礼者が死亡した圧死事件の原因だ」などなど、味
噌も糞も一緒にした、すべてサルマンが悪い的な歪曲報道が、米英などのマス
コミから流されている。

http://www.chicagotribune.com/news/sns-wp-blm-saudi-comment-c2e48e82-b60e-11e5-8abc-d09392edc612-20160108-story.html
Saudi Arabia has bigger problems than Iran

 このようなサルマンたたきの誹謗中傷が席巻するということは、逆に、サル
マン親子の対米自立策がそれだけ成功しているということだ。軍産複合体は、
自分たちが支援しているナイーフ皇太子らサウジの対米従属派がサルマンにや
られて不利になっているので、サルマンたたきを激化していると考えられる。
サウジ王家の内紛は、今年が山場かもしれない。引き続き注目していく。



この記事はウェブサイトにも載せました。
http://tanakanews.com/160206saudi.htm




●最近の田中宇プラス(購読料は半年3000円)

◆日銀マイナス金利はドル救援策
http://tanakanews.com/160203boj.php
【2016年2月3日】米連銀が日銀に求めていることは「ドルと米国債、米
金融システム)へのテコ入れ」だ。日米間の金利差の拡大、ドル高円安、日本
から米国への資金流入などが起きるなら「まともな」マイナス金利策でなくて
もよい。日銀が実際にとった策は「マイナス金利」のイメージだけが喧伝され、
銀行が日銀に預ける当座預金の金利はプラスのままという、銀行の経営に配慮
する内容となった。

◆英国がEUに残る意味
http://tanakanews.com/160127uk.php
【2016年1月27日】きたるべき米国の金融崩壊は、世界的な金融危機や
不況を引き起こすが、長期的に最も国力が低下するのは米国自身だ。英国は、
米英同盟を国家戦略にできなくなり、EUに残るしかなくなる。こうなってか
ら英国がEUと交渉しても何も引き出せず、EU内で今よりずっと低い地位し
か与えられずにEUに吸収されてしまう。だから英国は、米国が金融危機を再
発する前に、早くEUと交渉し、できるだけ有利なかたちでEU残留を決めたい。

◆ドルの魔力が解けてきた
http://tanakanews.com/160113bank.php
【2016年1月13日】中国を筆頭とする実体経済の悪化、米シェール産業
の行き詰まり、中央銀行群の金融テコ入れ策の弾切れなど、いくつもの危険な
動きが激化している。米国など先進諸国の株や債券がいつ不可逆的に暴落して
も不思議でない。英国の銀行は最近、顧客に対し「手持ちの株や社債を早く売
却した方が良い。パニック売りの状態になってからでは遅い」と忠告している。
モルガンスタンレーやバンカメも、似たような警告を発している。

2016年2月10日水曜日

南スーダン問題資料

きれいに要領よくまとまっています。参考までに。

南スーダン問題学習会
1,最初に「偏見ありき」 
南スーダンがあるアフリカに対する偏見
 「サバンナ、熱帯のジャングル、暑い、動物の楽園、人食い人種」=通俗的なイメージ
「野蛮、停滞、閉鎖的な部族社会、未発達の経済と文化」=インテリのイメージ これらはイギリス、フランス、オランダ、ポルトガル、スペインが16世紀から19世紀にかけて行った奴隷貿易、19世紀末期に本格化した植民地化を正当化するためにでっち上げた偏見である。
 「黒人は人間ではない。生きている動産である」、「黒人をムチ打つ時に上げる悲鳴は動物の生理的反応である」、「進化した人類の最高到達点は白人である。それに対して黒人は人類の退化の極致である」という科学的人種主義によって「学問的に」正当化され、教育やマスメディアによって流布された。これを、日本は無批判に受け入れた。
 30,40年前までの日本人が抱くアフリカは「腰ミノを身につけた黒人が裸でフンバフンバと踊り、白人女性を釜ゆでにして食べる。ライオンやキリンが草原を走っている。ジャングルではゴリラがのし歩き、ターザンが叫びながら木から木へと飛び移る」というものだった。
 さすがに最近はそのような侮蔑に満ちたアフリカ像を持つ日本人はいないように見える。しかし、正確にアフリカを知る人は多くない。多くの日本人にとって世界とは第一にアメリカ、第二にヨーロッパ、そしてアジアである。アフリカは抜けていることが多い。
 アフリカは、人類の直接の先祖であるラミダス猿人が400万年前に誕生した土地である。やがてホモ・サピエンスとなり、アジア、オセアニア、ヨーロッパ、アメリカへと拡散していった。
 日本人のはるか昔の先祖は、アフリカ東部から出発してアジア大陸を横断し、日本列島に到達した。アフリカは日本人の太古の故郷である。
 アフリカはダイナミックな歴史を持っている。ヨーロッパやアジアとは違う形で民族や国家が興亡した。絶えず外部と接触して、独自の国家を形成し、経済、文化を発達させた。ヨーロッパがでっち上げた「停滞したアフリカ」像を捨てるべきだ。
2,スーダンの歴史~古代から近代まで
a,「スーダン」はアラビア語で「黒い人」を意味する。
 元々はサハラ砂漠以南の西アフリカから東アフリカの広い地域を指す言葉だった。これを「歴史的スーダン」と呼ぶ。
b 現在の(北)スーダンと南スーダン
 異なる歴史と、異なる民族、異なる宗教、異なる文化を持ちながら、互いに影響を与えあってきた。
c(北)スーダン~日本よりも古い歴史を持つ国
 古代エジプト人がヌビアと呼んだナイル川上流域の(北)スーダンは金を産出したため、古代エジプトの侵略にさらされてきた。エジプトが強大になるとヌビアに侵攻した。逆にエジプトが弱体化するとヌビアは独立して対抗するパターンを、紀元前4000年紀から4世紀まで繰り返した。
 紀元前2200年頃、南部から移住してきた黒人の集団が、ナイル川第三瀑布付近のケリーマを首都とするクシュ王国を建国した。クシュ王国はエジプト文明の強い影響を受けた。
 エジプトが新王国時代に入り勢力を強めると、トトメス1世はクシュ王国に侵攻し、滅亡させた。エジプト人はヌビア人を支配した。ファラオへの服従とエジプトの神々への信仰、文字(ヒエログリフ)を強制した。
  紀元前900年頃になるとエジプト新王国は衰退した。これを見たヌビア人は、エジプトの支配から脱してクシュ王国を再興した。独立を回復させただけでなく、エジプトに侵攻して第25王朝を建国した。黒人がエジプトのファラオ(王)となった。
 ブラックファラオと呼ばれる第25王朝の王たちは、エジプト人を支配するというよりも、エジプトの再興に力を注いだ。廃れていた祭りの復活などを行った。ヌビア人は長年の支配によって、エジプトの文化、政治制度、技術を完璧に身につけていた。
 紀元前6世紀ごろ、第25王朝は、オリエントと呼ばれる現在のイラク、シリア、レバノン、ヨルダン、パレスチナ、トルコ南部の地域を支配したアッシリアに攻められ、滅亡した。ヌビア人はヌビアの地に引き揚げた。
 南下するアッシリアの脅威を避けるため、ヌビア人は南のメロエに都を移した。以後、4世紀までメロエ王国として存在した。
 メロエ王国はピラミッドの建設やヒエログリフの使用など、エジプトの強い影響を受けた文化を築いた。メロエ文字と呼ばれる独自の文字も作った。プトレマイオス朝エジプトや古代ローマ、ペルシアとの交流を行った。
 4世紀に入るとメロエ王国は北エチオピアに成立したアクスムによって滅ぼされた。
 その後、ヌビア人の国家はノバティア、マクリア、アルワの三つに分かれた。
 5世紀ごろ、これらの三つの国はキリスト教に改宗した。以後1000年間、現在の(北)スーダンはキリスト教の国になった。
 641年、イスラーム教勢力がヌビアに侵攻した。3つの国は激しく抵抗した。それに手を焼いたイスラーム勢力は停戦協定を結んだ。以後、エジプトのイスラーム勢力とヌビアのキリスト教国は共存した。しかし、協定によって自由な活動を許された商人の布教活動によって、イスラーム教はヌビアに浸透していった。
 その後も繰り返されたエジプトのイスラーム勢力との戦い、新たに興ったイスラーム教国家のフンジ王国とダルフール王国の侵攻により、16世紀までにヌビアのキリスト教国家は滅亡した。人々はキリスト教を捨てイスラーム教に改宗した。に改宗したことで、アラビア語とアラブ文化を受け入れた。ヌビア人はアラブ人となっていった。これが現在の(北)スーダンを構成する民族となった。
 19世紀に入ると、フンジ、ダルフール王国はムハンマド・アリー朝のエジプトに征服され滅んだ。エジプトはさらに南下し、現在の南スーダンにまで領土を広げた。これが南北スーダンの原型になった。
 領土を拡大したエジプトではあったけれど、近代化や軍備増強の資金をイギリスからの借金に依存していたため、しだいにイギリスの干渉を受け、半植民地状態に置かれるようになった。これに不満を抱いたエジプト民衆は1882年、オラービー革命を起こした。しかしイギリス軍が介入して革命は失敗した。エジプトは完全にイギリスの植民地になった。当然(南北)スーダンもイギリスの直接支配を受けることになった。
 異教徒の国であるイギリスの支配に、スーダン民衆は危機感を抱いた。
 1884年にムハンマド・アフマド・イブン・アブダッラーという人物が、マフディー(救世主)を自称して、武装蜂起した。マフディー軍は民衆の支持を受けて勢力を伸ばし、スーダン全域を支配した。ついにはマフディー軍鎮圧のために派遣されたチャールズ・ゴードン将軍(清国で常勝軍を指揮して太平天国の乱を鎮圧した)を1885年に戦死させた。さらにエジプトへ侵攻しようとした。
 これを重く見たイギリスは、1896年にスーダンへ軍を派遣してマフディー国家を潰そうとした。アームストロング砲とマキシム機関銃を装備したイギリス軍はマフディー軍と激戦を繰り広げた。1899年11月、イギリス軍はマフディー国家を壊滅させた。この戦争によって、(南北)スーダンは完全にイギリス(名目上はエジプトとの共同統治)の植民地になった。独立を回復したのは1956年のことだった。
d 南スーダン~王なき民族、王がいる民族のモザイク
 世界最長の大河であるナイル川は、(北)スーダンの首都であるハルトゥームで、エチオピア高原から流れる青ナイル川とビクトリア湖から流れる白ナイル川が合流する。
 白ナイル川をさかのぼると、南スーダンに入ったあたりで、アラビア語で障壁
を意味するスッド(大湿地地帯)が広がる。東西約300キロ、南北400キロ、
乾期の面積は約3万キロ、雨期では約13万キロに広がるスッドは、南下する古代エジプトやイスラーム勢力を阻む壁となった。そのため、(北)スーダンのように、古代エジプトやイスラーム教の強い影響を受けなかった。これにより、(北)スーダンとは違う歴史と文化を形成していった。
 (北)スーダンを構成するのはアラブ人(正確に言えばアラブ化した黒人)なのに対して、南スーダンに住むのはナイロート系の言語を話すシルック、ディンカ、ヌエル、アニュアク人である。
 (北)スーダンは古代エジプトの影響を受けて古代から中央集権的な国家を形成してきた。これに対して南スーダンを構成する五つの民族はそのような国家を建設しなかった。というより、出来なかったのである。
 (北)スーダンはナイル川の水を利用した灌漑農業が盛んだった。そのため富の蓄積と社会の階層分化が進んだ。それに対して、南スーダンの諸民族は牧畜や漁業、家族単位の小規模な農業が主であった。貧富の差は生まれようがなかった。中央集権的な国家を形成する条件ではなかったのである。優れているとか、劣っているかという問題ではない。
 シルック人はレス(王)がいる。それが他の民族とは違う。17世紀に確立されたシルックの王政は今も続いている。ただし、宗教的権威だけの存在だ。
 ディンカ人、ヌエル人は王がいない無頭制社会である。
 5つの民族は互いに抗争を繰り返してきた。そのため民族間の関係はよくない。しかし、抗争をしている民族が排除されることなく、同じ地域の中で一緒に生活している。異なる民族間の結婚も普通に行われている。
 異なる民族がモザイク状に住む南スーダンを、しばしば脅かしたのが、古代エジプト時代から行われた奴隷狩りであった。これから逃れるためにスッドに逃げ込んだという説があるくらいである。 
 奴隷狩りはイスラーム勢力も受け継いだ。イスラーム教の教えでは、同じイスラーム教徒を奴隷にするのを禁止している。しかし、異教徒を奴隷にするのは黙認された。それで、アニミズムやキリスト教を信じる者が多い南スーダンに奴隷を求めた。
 ただし、その奴隷制度は南北アメリカ、カリブ海とは大きく異なった。家畜、生きている動産とされた南北アメリカとカリブ海の奴隷は、その身分から逃れることはできなかった。死ぬまで奴隷だった。それに対して、イスラーム世界の奴隷は、イスラーム教に改宗し、運と才能があれば奴隷身分から解放された。軍人や官僚として出世さえできた。例えばモロッコの国王であるハッサン二世の曾祖母は黒人奴隷だった。
e 独立はしたものの、内戦とクーデターの繰り返し
 マフディー国家を滅ぼしたイギリスは、(南北)スーダンの植民地支配を進めた。ハルトゥーム周辺のナイル川一帯を綿花の生産地にした。これに対し(北)スーダンでは1924年以降に独立運動が起こった。それでイギリスはスーダンを南北に分断して統治する方法をとった。マラリア予防の名目で北緯8度以北の者が南へ、北緯10度以南の者が北へ行くことを禁止した。南北分断統治によって、北スーダンと南スーダンの一体化は阻まれた。これが独立後の内戦の一員となった。
 1956年1月1日、スーダンはイギリスから独立した。その日から、第一次スーダン内戦が始まった。内戦が始まったのは、新しく生まれたスーダン政府がアラブ系に牛耳られていたからだった。内戦は1972年のアディスアベバ合意まで続いた。この間、アラブ系が主導するハルトゥームの中央政府はクーデターを繰り返した。そして南スーダンの諸民族に国家統合の名の下に、イスラーム教とアラビア語を強制する政策を進めた・
 1972年のアディスアベバ合意で一旦は内戦は収まった。しかしアラブ系が権力を独占する構図は変わらなかった。南部で発見された油田の利権をアラブ系が独占したことでも5つの民族の不満が高まっていった。
 1983年、ジョン・ガランの指導のもと、南スーダンのディンカ人が主体となってスーダン人民解放軍(SPLA)が結成され、政府軍との戦争を始めた。第二次スーダン内戦だった。同年9月、当時のヌメイリ政権がシャリーア(イスラーム教の法律)を全土で適用させると宣言したことで、反発がさらに強まり、内戦が激化した。
 内戦は泥沼と化し、おりからの干ばつとエチオピアからの難民流入でスーダンは危機的状況に陥った。その中で中央政府が起こしたのが「史上最大の人権侵害」とされた2004年のダルフール紛争だった。
 チャドに面したダルフール地方ではフール人、マサリート人、ザガワ人とアラブ人との対立が深刻化していた。ついに武力衝突が起こった。スーダン政府はアラブ人に味方した。アラブ人が結成した武装組織ジャンジャウィードに露骨に肩入れした。スーダン政府軍はジャンジャウィードに武器を供与し、軍事訓練を行った。
 ジャンジャウィードとスーダン政府軍はダルフールで虐殺、拷問、略奪、レイプをほしいままにした。この「民族浄化」によって、数千人が虐殺され、100万人以上が難民になった。これにより、スーダン政府に対する非難が集中した。2009年には、国際刑事裁判所(ICC)がオマル・ハサン・アフマド・アル=バシール大統領に対して、集団殺害、人道に対する罪、及び戦争犯罪により逮捕状を出すまでに至った。
 2005年1月9日には南北包括和平合意(CPA)がなされ、第二次内戦が終結した。この内戦の死者は約250万人だった。数百万人が難民になった。経済は疲弊し、国土は荒廃した。スーダンは破綻国家になった。
 2005年7月、バシールを大統領、SPLAのジョン・ガラン最高司令官を第一副大統領とする暫定政府が発足した。暫定政府が6年間の統治を行なったうえで南部で住民投票を実施し、北部のイスラム教徒系政権と南部政府の連邦を形成するか、南部が独立するかを決めることになった。
 これでやっと平和になるかと思いきや同年7月30日に副大統領となったばかりのガランが、ウガンダ訪問からの帰途に事故死した。バシール大統領の陰謀だとして、SPLAの支持者がアラブ系住民を襲撃した。また、SPLAは3つに分裂した。SPLAの分裂は南スーダンに不安定の種をまくことになった。
 2011年7月9日、住民投票の結果により、南スーダンはスーダンから分離独立した。 当初、石油資源が豊富で、豊かな農業地帯が広がる南スーダンは順調に発展するだろうと言われた。
 ところが、念願の独立を果たした2011年と翌年の12年に、(北)スーダンと国境紛争を起こした。いずれも油田がある地区の帰属を巡ってだった。さらに、2013年12月14日、同年7月に解任されたマシャール副大統領派によるクーデター未遂事件が起こった。石油利権の奪い合いと見られている。このクーデター未遂事件により戦闘が発生し、190万人が難民となった。
 このように政情が不安定なため、南スーダンの油田や農業などの開発は進んでいない。失業率は高く、生活は貧しい。道路や鉄道、水道などのインフラの整備は未発達だ。教育や医療設備は存在しないに等しい。のべ50年間にわたる内戦が原因だ。。
 米国のシンクタンクの一つである平和基金会が発表している失敗国家ランキングでは、2014年・2015年の2年連続で南スーダンは1位となった。
 現在も南スーダンの政治状況は不安定である。
 この国へ日本は自衛隊を派遣している。
     
                                                    参考文献:『新書アフリカ史』
                                                              宮本正興、松田素二
                                                      講談社現代新書 2004年
 

2016年2月9日火曜日

読書紹介 森岡孝二『雇用身分社会』(岩波新書)

読書紹介 森岡孝二『雇用身分社会』(岩波新書)
                                                                    櫻井 善行
 本書はこれまでも企業社会論や株主オンブズマン、過労死学会や執筆などで精力的に活動している森岡孝二氏の近著である。本書の構成は序章 気がつけば日本は雇用身分社会、第1章 戦前の雇用身分制、第2章 派遣で戦前の働き方が復活 、第3章 パートは差別された雇用の代名詞、第4章 正社員の誕生と消滅、第5章 雇用身分社会と格差・貧困、第6章 政府は貧困の改善を怠った、終章 まともな働き方の実現に向けて から成り立っている。難解な用語もあるが、読むうちに周囲の具体的な事例が思い浮かび、気がついていたら最後まで読み終えていた。さほど読解も困難ではない本だと思える。
 本書の表題が「身分」というキーワードにこだわっているように、日本の過去の時代のでの労働者の階層化された姿を執拗に追いかけながら、現代社会の労働者の実態とつなげている。今思い起こすと日本社会は重要な転換点にたっているのではと思うことがある。それは政治の面でも社会の面でも経済の面でもである。(蛇足ながらポピュリズムが大きな顔を見せる意味では文化の面で元考えるが)21世紀になって日本社会のシステムが行き詰まり、現在の支配層の動きが「復古主義」的な側面を強調すると、表向きには前近代に向けてバックギアを切ったような錯覚に陥るかのようである。といってももう一方では「岩盤規制」をぶちこわす作業が多方面で進行しているとき、競争主義・市場原理による新自由主義的な施策の蔓延もまた見逃すことができない。現代日本の社会はこの2つの側面を統一的に捉える必要があろう。そのうえで本書は現代の労働者が正社員、契約社員、パート、派遣労働者など階層がいっそう細分化され、身分化されているというのが最も重要なメッセージだと思う。
 前半では「女工哀史」にみられる人間の尊厳を踏みにじるような戦前の工場労働から、現在の派遣労働者の拡大やパート労働者の受難、過酷な正社員の労働の実例が詳細に述べられている。後半では分断された労働市場の分解によって働くものが唯一の対抗手段であるべき団結・連帯・絆を行使することも困難にさせ、統治者がその不幸な労働者間の分断を労働政策・社会政策の側で補うのではなく、自己責任を強調してより差別化・階層化・貧困化に拍車をかけるかのような政策を追求する。
 第1章で、黎明期の日本の女子労働者らの酷い働かされ方を概観して、現代日本でもその酷い働かせ方が復活していることを指摘している。第2章・第3章・第4章では、派遣労働者、パート、正社員について、歴史的変遷と問題点を指摘している。第5章では、労働者の階層化が低所得層化と貧困化、若年層の中にも低賃金が増え、企業がリストラ・賃金の切り下げ・労働時間の延長など、利潤拡大の傾向が目につくこと指摘している。
 第6章では、労働分野の規制緩和政策にあたって、経済界の利益を優先し、近年の日本の相対的貧困率は高まることを示している。相対的貧困率は先進17か国中、アメリカの次で、日本の「所得再配分政策」が貧弱な結果だと指摘し、それでも政府は近年3度の生活保護基準の引き下げの強行を強烈に批判している。筆者は終章で、「雇用身分社会」から抜け出すための六つの方策を提言している。
 筆者は、「派遣労働者の酷い扱い」も労働現場での男女差別も、パートタイム労働者の低い時給も、日本が「世界で一番企業が活躍しやすい国」であることと「雇用身分社会」を結びつけている。階層化された労働者を「身分化」というとらえ方には、一方での岩盤規制を崩していくという新自由主義的規制緩和との関係をどう捉えるかということでやや違和感を感じるが、日本の労働者の酷い状態を再認識するには格好の書物である。
 筆者はこうした現状を打破する道として、至極まともな政策として「労働者派遣制度の見直」「非正規雇用を減らす」「雇用労働条件の規制緩和を止める」「最低賃金の引き上げ」「8時間労働制の確立」「賃金の男女差別をなくす」の6点を提言している。
  もちろん、現在の安倍政権がこうしたもともな政策を素直に受け入れるとはまずあり得ないであろう。彼らは労働者分断し、競争原理で煽り、その先にあたかも働くものの幸せな世界が待っているかの幻想を振りまいている。これは労働者国民にとって不幸であり災いである。また現在の日本の労使関係における著しい力関係の偏り、さらには労働者の尊厳と生活と権利を守るための労働組合運動の組織と運動が圧倒的に少数であるという現実からどう歩を進めるかということはわれわれに与えられた課題ではあるとは思う。もちろん筆者も、1975年をピークに日本では労働争議が激減し、もはや日本は先進国ではストライキが無くなった珍しい国であることを揶揄していている。それは労働組合運動への励ましだとも受け取れるが。とはいえ、現状認識を深め、活用していくためには読んでいただきたい一冊の本である。
                                さくらい よしゆき  

2016年2月8日月曜日

田中正造「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」

 
   

田中正造「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」

田中正造は当時栃木県選出の代議士でした。現在浪人中の熊手で議席を失ったおじさんとは同じ栃木県でもかなり違います。

 
以下東京新聞より引用

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田中正造、百年の問い 足尾鉱毒と福島原発 

田中正造。足尾鉱毒と生涯をかけて闘った。四日はその没後百年。正造翁が挑んだものは、水俣病や福島原発の姿を借りて、今もそこにあるようです。

 渡良瀬遊水地の三つの調整池のうちただ一つ、普段から水をたたえた谷中湖は、巨大なハートのかたちをしています。

 そのちょうど、くびれの部分が、旧栃木県谷中村の名残です。前世紀の初め、遊水地を造るために廃村にされながら、そのあたりは水没を免れました。

 ヨシ原と夏草に埋もれたような遺跡の奥に分け入ると、延命院というお寺の跡に、古びた赤い郵便受けが立っていて、その中に一冊のノートが置かれています。

◆「連絡ノート」は記す
 谷中村の遺跡を守る会の「連絡ノート」。ご自由にあなたの思いを書き込んでくださいと一九九四年に置かれて以来、十七冊目になりました。前夜の雨に湿ったノートをめくってみます。

 <5月19日。福島の原発や避難区域に指定されている集落が第二の谷中村にならないことを、ただただ願うばかりです>。東京都品川区の人。

 <6月30日。日本近代の公害の原点、谷中の歴史を学び、水俣と谷中を結び、真の文明を未来へつないでいくことを約束します。水俣病事件の受難者に寄り添いながら>。熊本県水俣市の人。

 どちらも丁寧な筆跡でした。

 原点の公害。それが足尾鉱毒事件です。

 現在の栃木県日光市にあった足尾銅山は明治期、東アジア一の産出量を誇っていた。当時の銅は主要輸出品。増産は国策だった。

 ところが、精錬時の排煙、精製時の鉱毒ガスが渡良瀬川上流に酸性雨を降らし、煙害が山を荒らした。そのため下流で洪水が頻発し、排水に含まれる酸性物質や重金属類などの鉱毒があふれ出て、汚染水が田畑を荒らし、人々の暮らしと命を蝕(むしば)んだ。

 栃木県選出の衆議院議員として、それに立ち向かったのが、田中正造でした。

 正造は明治憲法に保障された人権を愚直なまでに信奉し、十一年に及ぶ議員活動の大半を鉱毒問題に費やした。

 議員を辞職したあとも、困窮する住民の救済を訴え、一命を賭して明治天皇に直訴した。活動に私財を投じ、死後残した財産は、河原の石ころと聖書、憲法の小冊子。清貧の義民は、小学校の教科書にも紹介されて名高い。
◆重なるふるさと喪失

 時の政府はどうでしょう。

 煙や排水を止めさせて、根本解決を図ろうとはせずに、夏になると田んぼを真っ白に覆ったという鉱毒を巨大な溜池(ためいけ)を造ってその底に沈殿させ、封じ込めようと考えました。それが谷中湖です。

 足尾閉山から今年でちょうど四十年。湖底に積もった毒が、取り除かれたわけではありません。東日本大震災の影響で、渡良瀬川下流から基準値を超える鉛が検出されたのも、偶然とは思えません。

 国策の犠牲、大企業や政府の不作為、ふるさとの喪失、そして汚染水…。渡良瀬、水俣、そして福島の風景は重なり合って、この国の実像を今に突きつけます。

 田中正造よ、よみがえれ、そう念じたくもなるでしょう。でも、私たちが求めるものは、それだけですか。

 去年正造の伝記小説「岸辺に生(お)う」を上梓(じょうし)した栃木県在住の作家水樹涼子さんは「万物の命を何よりも大切に思う人でした」と、その魅力を語ります。同感です。

 晩年の日記に残る鮮烈な一節。「真の文明は、山を荒らさず、川を荒らさず、村を破らず、人を殺さざるべし」

 それだけではありません。「少しだも/人のいのちに害ありて/すこしぐらいハ/よいと云(い)ふなよ」という狂歌などにもそれは明らかです。
◆私たち自身で出す答え

 お金より命が大事、戦いより平和が大事…。原点の公害を振り返り、今学び直すべきことは、何よりも命を大切にしたいと願う、人間の原点なのではないか。

 「みんな正造の病気に同情するだけで、正造の問題に同情しているのではない。おれは、うれしくも何ともない」

 長年封印されてきたという正造最期の言葉です。

 意外でも何でもありません。そもそも誰の問題か。百年の問いに答えを出すべきは、私たち自身なのだということです。
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(引用おわり)