2016年3月20日日曜日

スティグリッツ・コロンビア大学教授

安倍さんがスティグリッツ・コロンビア大学教授のお話しを聞いたのは、以下の理由があったからでしょうね。


篠原 孝 メールマガジン452号
「アメリカの碩学の反TPP
 ―スティグリッツ教授の日本へのアドバイス-」2016.03.20
=====================================
 ノーベル経済学賞を受賞(2001年)したスティグリッツ・コロンビア大学教授が来
日した。
 主たる目的は、シカゴ大学時代(1965年頃)の恩師、故宇沢弘文東大教授の一周忌
の記念講演だったが、ついでの第一番が宇沢さんが共同代表を務めていた「TPP阻止
国民会議」での勉強会の講師で、そこに私が会長を務める「TPPを慎重に考える会」
が乗ることになっていた。ところが、安倍政権が途中から入り込み、16日に首相官邸
で開いた国際金融経済分析会議で、消費税率10%の引き上げに反対意見を述べ、大き
く報道された。

<宇沢教授3大関心事:公正、環境、平和>
 その翌朝、これまた便乗組の岡田代表以下民主党幹部とTPP組とが丸テーブル3つ
に分かれ、約30人弱で1時間講演していただいた。前々から、TPPは日本のためにもア
メリカのためにもならないと公言し新聞にも寄稿したりしていることは承知していた
が、話を直接聞いたのは初めてである。率直な話し方といい、その含蓄のある内容と
いい、宇沢さんの弟子ならではと合点がいった。
 スティグリッツ教授は、宇沢教授はGDPを増やすことだけに関心がいく並みの経済
学者とは違い、公正、環境、平和の3つを重視していたと懐かしんだ。私は宇沢教授
の本は数冊読んでいるが、スティグリッツ教授が恩師の価値観をそのまま受け継いで
いることがよくわかった。
 以下、その概要を紹介する。

<消費増税より炭素税の導入>
 日本は経済成長率が低いとの批判があるが、それよりも生活の質が大切であり、そ
れほどの心配は無用。アメリカのほうが問題は深刻だ。例えば、日本は平均寿命が長
い。それに対し大学卒ではないアメリカの白人男性の寿命が急激に下がっている。な
ぜならば、賃金が40年前より低く、生活が苦しくなっているからだ。
 格差が拡大している。この点は、日本にも同じ悩みがある。格差是正には消費増税
などせずに、もっと需要を喚起する政策を取り入れた方がよい。
 税制なら、炭素税は政府の財政にも貢献するし、経済も強くする。相続税は収入を
増やし、公平(分配)に役立つ。
 他に包摂(inclusion)や差別をなくすことも必要だ。例えば、元気な高齢者に働
いてもらうのもよい。

<TPPは多国籍企業のロビイストが書いただけ>
 圧巻はTPPについての主張である。講演の半分近くをTPP批判に充てた。
 TPPは自由貿易協定(Free Trade Agreement)だというが、それなら3頁ですむ話
なのに、何と6000頁。誰も全部を読みこなしていないだろう。
 オバマ大統領は、21世紀の世界のルールは中国に書かせず、アメリカが書くと言っ
たが、多国籍企業のロビイストが書いているだけのことで、大企業に都合よく書いて
いる。
 特許等知的財産のルールが問題である。特に薬の問題が大きく、安いジェネリック
にできないようになっている。大きな製薬会社の利益が増えるようになっており、ア
メリカ人の健康が損なわれることになる。この分野でもいいことはほとんどない。

<ISDSは害だらけ、アメリカ議会は批准しない>
 特に投資条項は好ましくない。
 1980年頃までは、CO2の排出など問題にならなかった。今は違う。地球に代わりは
なく一つしかない。環境を壊したらおしまいである。だから、環境規制は必要だが、
カナダ政府の規制により損害を被ったとアメリカの企業がISDSで訴えて、カナダ政府
が敗けている。タバコの規制も訴えられている。ISDSは新しい差別をもたらし、人間
の健康や環境をも害する懸念がある。
 アメリカにとってTPPの効果はゼロであり、アメリカの議会で批准されないだろ
う。従って、日本も批准すべきではない、とまで言い切った。
 TPPはいずれにしろ害だらけであり、賛成できない。
 原中勝征前日本医師会会長が閉会のあいさつで、まるで宇沢教授の講演を聞いてい
るようだと結んだ。全く同感である。

<日本にはピリッとした大御所学者がおらず、マスコミもTPPになびいてばかり>
 アメリカの学者は日本の学者よりずっと率直のようだ。国に媚びを売ることなどせ
ず、ダメなものはダメと言い切っている。アメリカの各紙への投稿等や訪日時のイン
タビュー記事で反TPPであること、積極経済論者だと若干は知っていたが、直に話を
聞くとやはり印象が強烈である。そしてふと思うのは、ノーベル経済学賞とは言わな
いまでも、政府の主要審議会の委員を務める日本の並みいる経済学者の中に、このよ
うな学者がいないことに、一抹の寂しさを感じた次第である。

<なぜかTPPに関心がいかない日本のマスコミ>
 私は、消費税も所得税と法人税と並ぶ日本の三大税収源の一つにすぎず、税率の上
げ下げにそんな大騒ぎするものではないと思っている。それよりもずっと衝撃が大き
いのがTPPである。入手した官邸会合資料にはTPPに触れた部分もあったが、残念なが
ら東京新聞と日本農業新聞が報じただけで、他の五大紙は全く扱っていない。今まで
は全容が明らかになっていないから仕方がないと思っていたが、今少なくとも条文は
明らかにされている。アメリカでは大統領選の争点となっているのに、日本はTPPは
批准するのが当然のような扱いで、どこも取り上げようとしない。民主党幹部も記者
会見等でこのことに全く触れていない。

<民主党も共和党も国民もTPPに反対しているアメリカ>
 アメリカでは、率直なのは、学者だけでなく、国民も同じである。
 共和党の重鎮がトランプ旋風をおかしいと感じ始めて、指名阻止に乗り出したが、
今もその勢いは止まらない。トランプ氏は、スティグリッツ教授と同じく、貿易協定
は雇用を奪い、賃金を下げていると批判し、共和党の支持者の多くもTPPに反対し始
めている。工場労働者の多いミシガン州もトランプ氏が大勝した。トランプ人気の一
つに貿易で中国、日本に負けている、TPPなど結ばず、アメリカを強い偉大な国にす
ると主張していることもあるようだ。
民主党でもサンダース氏が、クリントン元国務長官がNAFTAに賛成し、TPP反対に躊躇
した、と批判しミシガン州で勝利している。かつて自由貿易を支持していると思われ
た共和党も、元々反対の民主党も、こぞってTPPに強烈なNOを突きつけ始め、政治的
対立要因となりつつある。

<民主党も共和党もこぞって反対するTPPは批准の見込みなし>
 そして、今や共和党支持者の方(たぶん白人が多い)が、民主党支持者より自由貿
易に否定的になっている。格差が拡大し、アメリカ人全体が貧しさを感じるように
なったからである。昨年春、オバマが遺産(レガシー)にしたいというTPPに対し、
民主党がこぞって反対したが、共和党の賛成により、やっとTPPの署名にまで漕ぎつ
けた。オバマ大統領は、太平洋に重点を移すリバランス外交の上で、TPPを中国と競
争する上での通商外交上の戦略の要にしている。ところが、今や頼みの共和党もそっ
ぽを向きだした。スティグリッツ教授も予測したとおり、2016年にはとても批准され
ないだろう。

<安倍政権の悪巧みを打ち砕く>
 一方、我が日本は、予算案の参議院通過も目前となり、政府与党はTPP特別委員会
の設置を急いでいる。日本がTPPをリードしているという格好をつけたいというのが
一番の理由のようだが、もう一つ参議院選前に厄介なことを済ませてしまおうという
悪い魂胆も垣間見える。
私は、こんな悪協定を批准させないように頑張るつもりである。
=====================================
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このメールはお申し込み頂いた方、名刺交換させて頂いた方に配信させていただいて
おります。配信不要の方はご連絡ください。ご連絡をいただいた後も、配信設定のタ
イミング上、何通か届いてしまう場合もございますが、ご了承ください。

ご意見等ございましたら、ぜひ篠原孝事務所までお寄せください。
 e-mail :t-sino@dia.janis.or.jp
また、よろしければこのメールマガジンをお知り合いの方にも広めてください。
今後とも、どうぞよろしくお願いいたします。
  篠原 孝