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2016年6月18日土曜日
八代尚宏 氏の珍説
「残業代ゼロ」法案=過労死法案の誤解を解く
八代尚宏 [昭和女子大学特命教授・現代ビジネス研究所所長]
http://diamond.jp/articles/-/66867
2015年2月17日
いわゆる「残業代ゼロ」法案ができると、私たちの働き方はどう変わるのか?
(c)promolink-Fotolia.com.jpg
国際的にみて長過ぎる日本の労働時間は、労働者の健康を損ね、時間当たり労働生産性の向上を阻害するとともに、仕事と家庭の両立を図る働き方への大きな障害となっている。この背景にあるのが、事実上、残業労働に割増賃金を義務付ける労働時間制度だ。これは長時間労働の防止に効果的ではないのみならず、むしろ長い労働時間を誘発することがある。
2月13日には、労働時間の規制を改革するための労働政策審議会の分科会報告が公表された。これは昨年の産業競争力会議の答申内容を具体化したもので、長すぎる労働時間を短縮させる先進国型の労働時間規制に向けた改革への第一歩といえる。また、最低限5日間の有給休暇を企業が指定する仕組みも、初めての試みである。
実は労働時間の上限を法律で制限
目的は労働者の健康管理
今回の制度改革のもっとも大きなポイントは、「高度プロフェショナル制度の導入」である。これは高度な技能を持ち、自らの裁量で働く労働者については、残業手当の規制を適用しない、米国の「ホワイトカラー・エグゼンプション」に類似したものである。しかし、日本では、企業間を自由に移動し「離職の自由」をもつ、米国の専門職労働市場とは大きな違いがある。このため、欧州型の労働時間の上限を規制する仕組みと組み合わせることで、労働者の健康確保を担保する措置を図っている。
その措置とは、(1)仕事を終えてから翌日の仕事開始まで、例えば11時間の休息時間を設定、(2)実際の労働時間よりも幅広い在社時間等の健康管理時間の制限、(3)例えば年間104日の休業日数を与える使用者の義務等、多様な基準での労働時間の上限を法律で制限することである。
法律で労働時間を規制することの本来の目的は、労働者の健康管理であり、賃金を増やすことではない。今回の改革案に対して「残業代ゼロ法案」とレッテルを張る論者は、「残業代さえ払えば、事実上、際限なく労働者を働かせても良い現行制度の方が望ましい」ということに等しい。もっとも、現行法でも労働組合が拒否すれば、週15時間、月45時間等の法定の残業時間制限を超えることはできないが、これは現実に実効性のある規制とはなっていない。
「年収1075万円」だけが基準では
効果はあまり大きくない
残業代がなくなれば、社員は際限なく仕事を押し付ける「過労死法案」という批判もある。しかし、それを防ぐために、労働時間の上限を定める規制に改革するもので、本来は「過労死防止法案」と呼ぶべきである。
また、社員に慢性的な残業をさせることが企業の利益になるというのは、前時代的な発想である。そうした単純労働はこの制度の対象外であり、高度の頭脳労働が必要な社員には十分な休息を取って、質の高い仕事をしてもらうことが企業の利益となる。そのために、ダラダラ働き残業代を稼ぐよりも、短時間に効率的に働く労働者にとって有利な仕組みを導入するものであり、これを労働者全体の既得権の侵害とみることは誤っている。
せっかく新しい制度ができても、その対象となる労働者が例外的な存在であれば、大きな意味はない。元々、産業競争力会議で示された長谷川分科会長試案では、年収と職種との2つの基準が別々に設けられていた。これは、例えば1000万円以上の年収を稼ぐ社員であれば、企業との交渉力も高く、意に反した残業を強制される可能性は小さいからである。また、年収水準はそれほど高くなくとも、職務の範囲が明確で高度な職業能力を有する職種であれば、自分で労働時間を管理することが容易なためである。今回の報告書のように極端に高い年収「1075万円以上」だけが要件であれば、仕事と生活の両立を目指す共働き世帯の大部分は、その対象外となり、制度の恩恵を受けられなくなる。
また、こうした対象となる職種を列挙するポジティブ・リスト型では、多様な職種の増加には対応できない。労働時間の総量規制がかけられた以上、むしろ工場労働や顧客に対して直接サービスを提供する等、労働時間の長さが生産量と結びつく特定の職種を対象外として列挙し、それ以外は原則自由とするネガティブ・リスト型が望ましい。
現行の裁量労働制ではなぜ不十分なのか
現行法でも、特定の専門的な職種については、実際に働いた労働時間の長さにかかわらず賃金が支払われる裁量労働制が適用されている。新たな制度を作らなくとも、この適用対象となる職種を増やせば、多様な働き方が可能となるとの批判もある。これに対しては、現行の裁量労働制が欧米の仕組みと比べて極めて中途半端であり、業務の始業時間にかかわらず、少しでも深夜や休日に労働時間が及ぶと、とたんに「深夜・休日労働は疲労度が高い」として、割増残業率の適用が義務付けられる硬直的な仕組みのためである。これは週40時間を超えるかどうかだけで判断する米国の残業時間規制の仕組みとも異なっている。
大学や研究機関の調査研究業務だけでなく、外国との時差に対応してもっぱら深夜に働く仕事や、情報機器等のメンティナンス作業のため、一般の社員が帰宅した後で仕事を始めるために、もっぱら深夜・休日に働かなければならない職種も増えている。そうした現状を踏まえれば、特定の職種についての割増賃金規制を除外にする、完全な裁量労働制が必要とされる。これは、いわば「部下のいない管理職」的な働き方の専門職のイメージに近い。
長時間労働でダラダラ…
そんな社員の報酬は抑制される
この労働時間法制の改革は、仕事の現場で実際に行われている働き方に、時代遅れの法制度を合わせるもので、多くの労働者にとってより働きやすい就労環境を目指すものである。もっとも、専門職の内でも、短時間で効率的に働く社員の報酬が増える半面、長時間労働で仕事の質の低さを補ってきた社員の報酬が抑制される可能性は否定できない。
2000年代はじめ、電機労連が会社との交渉で作り上げた新裁量労働制は、慢性的な長時間労働のプログラマーやシステム・エンジニアの労働時間短縮を目指したものであった。時間が空いたときには少しでも長く休むことが容易になるように、労働時間と切り離された定額の報酬である「裁量手当」を定めた。これは管理職手当に相当するもので、この具体的な水準は、個々の会社によって異なるものの、例えば本給・調整額の3割というものもあった。このように、現行の残業割増手当がなくなると、必ず年収が減るというわけではない。
「労働市場の流動化」は
労働者の保護につながる
現行の残業時間に比例した手当を定めた規制を変えることは、残業代をまともに支払わないブラック企業を利するのみという批判もある。しかし、現行の法律自体を守っていないブラック企業を引き合いに、まともな大部分の企業を対象とした改革案を批判することは的外れである。労働法を守らない企業に対しては、犯罪者を取り締まる警察と同じ厳格な対応が必要である。
労働基準監督官が人手不足で十分に取り締まれないならば、例えば、定期検査に民間事業者を活用し、そこで検査を拒否したり、違反が見つかった企業のみに、後で監督官が立ち入る等の役割分担の仕組みを設ければ良い。これは駐車違反の取締り業務を民間事業者に委ね、警察官は公務員でなければできない業務に専念することと同じである。
しかし、いくら労働基準監督署の機能を強化しても、法を守らない事業者はあとを絶たない。労働者を保護するための最善の手段は、労働者にとって「労働条件の悪い企業を辞める権利」を確保することである。日本では、「労働市場の流動化」という概念に対しては、「企業のクビ切りの自由度を高める」という否定的なイメージが強いが、それは労働者にとっても「労働条件の悪い企業からの脱出」を容易にすることでもある。すでに労働力人口が持続的に減少する時代に突入している現在、少しでも景気が良くなると、途端に低賃金の仕事には労働者が集まらず、事業所の閉鎖に追い込まれる状況となっている。
少子高齢化の進展は、労働者にとっては中長期的には「売り手市場」を意味している。労働時間の短縮化を含む労働者の保護のためには、「賃金や労働条件の悪い企業を辞められる」選択肢を増やすことが基本となる。労働時間の改革は、それ自体だけでなく、労働市場の流動化を促す他の規制改革と結び付くことで、大きな相乗効果をもつと言える。
部活動と休養
中学高校の部活動に休養日設定を 文科省が提案へ
高浜行人
2016年6月4日05時30分
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文部科学省は3日、中学と高校の部活動について、休養日を設けるよう学校に求める案を大筋でまとめた。顧問の教員の負担を軽くし、生徒の健康を保つため、過剰な活動を適正化するのが狙い。文科省は来年度にもガイドラインをつくり、休養日がどれくらい必要かなどの基準を初めて示す方針だ。
文科省は4月、貧困家庭や障害のある子らへの対応が増えて教員がさらに忙しくなっているとして、業務負担の軽減策を考える省内の会議を設置。中でも部活動を中心的な課題として検討してきた。2014年公表の国際調査では、中学教員の部活動の指導時間が日本は週平均7・7時間と参加国平均の3倍を上回って最長。文科省は、生徒にとっても部活以外の多様な体験に影響が出かねないと判断した。
案では休養日を設けるほか、複数の顧問を配置することなどを学校に求める。さらに国の施策として、教員、生徒、保護者を対象に部活動の実態を調査する▽休養日はどれくらいの日数が適切かなどをスポーツ医科学の視点から研究する▽調査や研究の結果を盛り込んだガイドラインをつくる――と明記する方針。
また、文科省によると中学の団体競技の大会の際、引率が教員に限られて外部指導者にはできないケースが多い。これらは日本中学校体育連盟や多くの都道府県連盟のルールが一因として、国や教育委員会が連盟側に改善を要請する、としている。
文科省は6月中にも案を公表し、全国の教育委員会などに通知して改善を求める。さらにガイドライン作りに向け、来年度予算の概算要求に調査や研究の費用を計上する方針だ。文科省の案やガイドラインに強制力はないが、休養日の日数などを具体的に示すことで、学校側が自発的に守るようにしたい考えだ。
案には部活動のほか、様々な調査に回答する業務の負担感が強いことから、国の調査件数を減らすことも盛り込む。学校給食費の徴収を教員にさせないよう、会計ルールの見直しやシステム整備を教育委員会に求める見込みだ。
■行き過ぎに危機感、実効性は不透明
部活動に休養日をつくろうと、文科省が本腰を入れる。部活動の顧問教員の負担が「ブラック化している」との指摘に加え、部活動が行きすぎると生徒の健康を害しかねないという危機感があるからだ。
休養日の議論はこれまでもあった。1997年、運動部活動の実態を調べた旧文部省の有識者会議や、大阪市立桜宮高校の生徒自殺を受けた13年の文科省の有識者会議は、いずれも休養日が大切だと報告した。
01年の調査では運動部活動が週6日以上の中学校は5割超。全教員が顧問になるのが原則の中学校は3分の2に上った。練習試合や大会などで土日も活動があるケースは多く、負担が大きい状況はいまも大きく変わらないと文科省はみている。部活動は生徒の自主的、自発的な参加で行われるものとして教育課程外に位置づけられ、学校の裁量に任せられていることが背景にある。
教員の負担は深刻だ。土日など勤務時間外に指導をしても、手当は国の基準で「4時間程度で3千円」にとどまる。
文科省は近く出す案で、部活動の大幅見直しを打ち出し、基準づくりにも乗り出す。ただ、強制力がない分、どこまで実効性のある施策を打ち出せるかは不透明だ。(高浜行人)
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