2016年5月7日土曜日

「日本会議の研究」

「日本会議の研究」


(書評より)魔群の通過
 
日本最大の右派組織であり、安倍政権の支持団体でもある「日本会議」について、著者
は前線で活動する著名人たちではなく、後方の兵站を担う「一群の人々」に着目して調
査を開始する。そして膨大な文献の蒐集・分析と関係者への取材を重ね、「一群の人々
」がある宗教団体の元信者たちであることを突き止める。「日本会議」の本体は70年
代初頭の右翼学生運動から発した団体であること、「一群の人々」はその団体の構成員
であり、右翼学生運動の闘士たちであったことが明らかにされる。
 
「一群の人々」は「日本会議」のほか、いくつかのラインに分かれて連動しつつ活動し
ている。では、それらを統括している司令塔は誰か? 

著者は1年以上の踏査の果てに、ある人物に行き当たる。第6章では、その人物の半生
が開示される。7年に及ぶ病臥、信仰による病の克服の末に、著者が「神の子」と呼ぶ
その人物は27歳で大学進学を果たす。進学後の彼は、右翼学生運動のリーダーとして
、カリスマ的な指導力で後輩学生たちを従えて行く。
 
「一群の人々」は、大学を離れたあとも粘り強く運動を継続する。40年に及ぶ地道な
デモ、署名活動、請願活動を積み重ね、遂には政権中枢に食い込み、憲法改正に王手を
かけるまでになる。その中心には、いつも「神の子」がいた。様々な証拠と証言を検討
したうえで、著者はそう推理している。
 
こうして今や「日本会議」は、国政問題においては議論や討論を回避し、一般の国民を
無視して自分たちインナーサークルの意思を押し通す横暴な政治手法を政権に強行させ
、市民社会においては誰かを「敵」に仕立てて攻撃する運動体を育成するに至っている
。その淵源には、「神の子」たちの左翼学生に対する深い恨みと、無関心で無節操な一
般学生に対する強い不信がある。
 
本書は民主主義が民主主義を殺して行く逆説的な悲喜劇を描いたノンフィクションであ
ると同時に、推理小説でもあり、青春小説でもある。「神の子」の半生を描いた部分に
は、悲哀感さえ漂う。どこからともなく里に下りて来ては村人を脅かす一団の魔物にま
つわる怪異譚のようでもある。願はくはこれを語りて平地人を戦慄せしめよ。本書が多
くの読者に読まれんことを。




(書評より)緻密で実証的な謎解きが圧巻のノンフィクション

「日本会議」の存在を知らなかった人にとっては衝撃、知っていた人にとっても、先入
観や偏見が鮮やかに突き崩される内容。
 
まったく陰謀論的なものでなく、きわめて実証的であるところが素晴らしい。日本で進
んでいると言われる「右傾化」を論ずるには、今後はまず本書に書かれていることは押
さえなければならない。必読にして基本の書だと思う。
 
それだけでなく、最後の重要人物に至るまでの緻密な謎解きストーリーはノンフィクシ
ョンとしても圧巻。膨大な文献取材だけでなく、人物取材・現場取材も盛り込まれ、読
んでいて飽きることがない。
 
そして、こういう社会をつくってしまったのはほかならぬ自分たちだと、暗澹とし世を
はかなみたくなるところ、「あとがき」には本当に励まされ、救われた。私たちがなす
べきことは明らかだ。
 
学者でも記者でもなく、一サラリーマンだったという著者。これだけのことを調べあげ
世に問うてくれた著者と、著者を見出しサポートした編集者に、心からの感謝と敬意を
表したい。